成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:北海道の農業用ダムにおける堆砂土の特徴
担当部署:(独)北海道開発土木研究所 農業開発部 地質研究室・土壌保全研究室・農業土木研究室
担当者名:伊東佳彦,横濱充宏,小野寺康浩,大野隆
協力分担:なし
予算区分:国費(受託)
研究期間:1999〜2001年度
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1.目 的
農業用ダムの貯水容量減少や取水施設の機能障害などの原因となる貯水池内の堆砂土の
評価手法と活用技術(とくに農用地への客土材や土質材料として)を確立し、農業農村整備事業に
資するものである。
2.方 法
1)ダム上流域の地質や供用年数の異なる農業用ダム7箇所を対象に、貯水敷内から堆砂土を採取し、
土質特性(粒度分布、自然含水比等)や理化学性(肥沃度、微量要素、有害物質等)を分析した。
2ダムについては、ダム上流域から山土(地山土)を採取・分析し、堆砂土と比較検討した。
2)堆砂土の試料採取は、貯水位が低下している10〜12月に行い、堆砂土壌断面を観察し、上・中・下流の
各地点より、土性の異なる部位をサンプリングした(図−1)。
3.成果の概要
1)ダム堆砂土は、シルト系と砂質系の土が主体である(図−2,3)。
2)砂質系の堆砂土は、各種埋戻し材料、暗渠用疎水材等に利用可能と判断されるものが多い。
3)シルト系の堆砂土は、高含水比のものが多く、自然含水状態のままでは土質材料としての利用は難しい。
シルト系の堆砂土を土質材料に用いる場合には、固化処理が必要である。
4)中〜細粒質の堆砂土は貯水敷内の地山土に較べて、有効態燐酸、交換性Ca、可給態窒素、可給態珪酸が多く、
農耕地土壌として適性がより高く、客土材として優れている。
5)堆砂土は各種微量要素が適性範囲にある。
図−1 ダム堆砂土の採取位置(例)
図−2 ダム堆砂土の土質柱状
主要流域地質:堆積岩、
供用年数:34年、
有効貯水量:3,961千m3、
ダム形式:ロックフィル
図−3 ダム堆砂土の粒度分布
※図−2と同地点での結果
表−1 堆砂土および地山土の化学性(7ダム分)
| |
ダム堆砂土 |
地山土 |
| 全点数平均 |
分布範囲 |
粗粒質平均 |
中粒質平均 |
細粒質平均 |
全点数平均 |
分布範囲 |
| pH(H2O) |
5.8 |
4.7〜6.8 |
6.0 |
5.7 |
5.8 |
6.1 |
5.5〜6.7 |
| 可給態燐酸(mg P2O5/100g) |
23.7 |
4.1〜80.4 |
11.4 |
28.1 |
26.4 |
9.9 |
2.7〜22.2 |
| CEC |
20.6 |
2.6〜39.7 |
13.3 |
22.0 |
23.2 |
23.0 |
15.0〜29.1 |
| 交換性Ca |
277.1 |
28.9〜706.0 |
179.6 |
291.4 |
314.5 |
146.8 |
14.7〜264.0 |
| 交換性Mg |
78.8 |
6.9〜159.0 |
58.8 |
94.9 |
76.1 |
96.9 |
6.0〜256.0 |
| 交換性K |
75.7 |
8.7〜588.0 |
79.7 |
84.5 |
66.7 |
205.7 |
9.5〜589.0 |
| 可給態窒素(mg N/100g) |
13.5 |
0.1〜69.9 |
1.1 |
8.5 |
23.1 |
0.8 |
0.2〜1.4 |
| 可給態珪酸(mg SiO4/100g) |
19.7 |
7.9〜36.5 |
16.9 |
22.2 |
19.1 |
11.1 |
6.7〜16.4 |
| 遊離酸化鉄(Fe2O3 %) |
1.6 |
0.2〜3.4 |
1.2 |
1.7 |
1.7 |
2.3 |
1.0〜3.3 |
| 熱水可溶性B(ppm) |
0.7 |
0.2〜1.8 |
0.4 |
0.8 |
0.8 |
0.4 |
0.2〜0.7 |
| 可溶性Cu(ppm) |
5.5 |
0.6〜16.2 |
3.1 |
5.8 |
6.3 |
2.7 |
0.1〜6.2 |
| 可溶性Zn(ppm) |
6.3 |
1.1〜22.8 |
3.3 |
6.9 |
7.2 |
2.8 |
0.3〜5.8 |
| 易還元性Mn(ppm) |
239.2 |
63.0〜678.0 |
136.5 |
233.3 |
295.3 |
140.9 |
11.5〜386.0 |
| 可溶性As(ppm) |
1.1 |
0.2〜2.9 |
0.8 |
1.2 |
1.2 |
0.5 |
0.1〜1.4 |
| 交換性Ni(ppm) |
0.3 |
0.0〜1.2 |
0.3 |
0.5 |
0.2 |
0.9 |
0.0〜2.9 |
注)ダム堆砂土は7ダム、地山土は2ダムの結果を示している。
4.成果の活用面と留意点
1)ダム堆砂土は土質・理化学的特徴から農用地への客土材や土質材料としての適性を有している。
2)シルト系の堆砂土を土質材料に用いる場合は固化処理が必要である。
3)ダム流域内に鉱山や工場等の汚染源がある場合や蛇紋岩が認められる場合には注意が必要である。
4)酸性硫酸塩土壌の有無にも留意する必要がある。
5.残された問題とその対応
1)流域内に休廃鉱山、蛇紋岩類あるいは酸性硫酸塩土壌を生成するような地質が分布する場合の
農業用ダムにおける堆砂土利用の可能性。
2)堆砂土利用にあたっての分析項目や採取位置・数量の適正化・簡素化の検討。
3)実際の活用にあたっての経済性や事業制度の検討。