場長室より(風景とひとこと)
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2025.10.31 もちの話題
もち(餅)が好きです。
お正月だけでなくいつでももちが食べたいです。我が家ではなんのお祝いがなくても、しばしば赤飯を炊きます、もちろんもち米と甘納豆で。大福やおはぎを目的に和菓子屋さんへ行くのが週末の楽しみです。隣接する旭川周辺にはおいしい和菓子屋さんがいくつもあって幸せです。もちをさんざん食べた後に味わう白いご飯もまた、粒感が際だっておいしいと思います。私の嗜好はどうでも良いですね。
もちといえば、お米(稲)を真っ先に思い浮かべますが、ほかにもキビ(黍)、アワ(粟)、オオムギ(大麦)など、イネ科の穀物にはモチ性の在来種(古くからその地方で栽培されてきた地方品種)が存在します。『モチの文化誌』(阪本寧男著、中公新書)によると、穀物のモチ性在来種は「アッサム以東のアジア東部に極限されている」とのことです。アッサムはインド北東部の州で、東隣にミャンマー、タイと続き、その先の東端は日本です。なぜこの地域(アッサム~日本)で粘りのある食感が好まれてきたかについては、イネ科穀物よりも農耕起源が古いタロイモ(サトイモを含む仲間)やヤムイモ(ナガイモやジネンジョを含む仲間)の影響を示唆する考察が紹介されています。これらのイモ類はしっかりねっとりしていますので、なかなか説得力がありそうな説です。
脇道にそれがちですみません。お米のもちに話を戻します。
北海道の水稲は、栽培面積の7%がもち品種です。なんだか少ないように感じられる数字ですが、もち米の収穫量としては、北海道が全国1位です。道内の「主産地」は上川・留萌の北部やオホーツクなど、夏の気温が低めの地域が中心です。うるち米の場合は、気温が低いとデンプンに含まれるアミロースの含有量が高まってしまい、炊飯米は硬めで粘りが弱くなり食味が低下しやすい傾向があります。一方、もち米は、そもそもアミロースが含まれないため低温が品質に与える影響は比較的小さいと考えられます。気温が低めの地域でもち米が選択されてきたのは、そういった背景もあるのではないかと推察します。
※【ちょこっと解説】うるち米のデンプンは、20%前後がアミロース、残り80%程度がアミロペクチンという、少し性質の異なる成分で構成されています。アミロースの割合が少ないほど炊飯米の食感は粘りが強くなります。もち米のデンプンはアミロペクチンのみで、アミロースは含まれません。

農業試験場での、もち品種の改良は、もち米の栽培地域を念頭に、「早生」と「耐冷性」を優先的な育種目標として、取り組まれてきました。現在の主力品種である「はくちょうもち」、「きたゆきもち」などは、北海道品種の中でも最も早熟な部類に属しており、耐冷性も強く、特に比較的開発年の新しい「きたゆきもち」 や「きたふくもち」は耐冷性“極強”に達しています。地域への適性を追求してきた結果といえますが、おそらく世界的にみても特異な品種群だと思います。現在は、収量性と耐病性の向上を目指して、さらに開発を進めているところです。
さて、実際にもち米を栽培するときに、大事なことがあります。
もち品種の花が、うるち品種の花粉を受けて稔ると、その花に稔る粒(籾・玄米)はうるちとなります(この現象を専門用語で「キセニア」と呼びます)。もち米にうるち米が混入してしまうと、加工した際、もちの中に米粒が残りやすくなってしまうので、加工現場からは非常に嫌われます。


うるち米の混入を防ぐには、うるち品種との交雑を避けるため距離を空けてもち米品種を栽培することが必要です。このため道内産地では、地域ごとにまとまって、もち品種を栽培する取り組み(「団地生産」と呼ばれます)が行われています。
北海道産のもちは、もち米団地のもちです。
ちなみに、私も、もち米団地の出身です。
「もち米団地出身」までつなげると、知らないひとが聞いたら、もち米で出来たアパートから登場したと思われそうです。こんど自己紹介で使ってみよう。
なぜもち米の話題をもち出したかというと、ちょうど今週、もちの食味試験が行われているからでした。もちろん、新しい品種候補を絞り込むための試験です。



私も食味試験に参加しています。張り切って臨みましたが、どれもおいしいので困りました。これまで選抜が進んできたので、品質にそれほど差がないということかもしれませんが、もしかしたら、いやまさか。
小豆の担当だった先輩が、あんこが好きすぎてどれもおいしく感じるから評価が出来ない、俺は評価者に向いていないんだ、と言っていたことを思い出しています。

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