研究成果:2号の3
研究成果
根釧農試 研究通信 第2号(1993年3月発行)
3 フリーストール牛舎構造と作業性に関する試験
北海道では成牛飼養頭数が50頭以上の酪農家が年々増加し、ここ数年間でつなぎ式からフリーストールミルキングパーラ搾乳方式に移行した農家が倍増しています。このため、フリーストール方式による飼養管理および搾乳作業などの省力化を望む声が極めて高くなっています。しかし、フリーストール牛舎施設の構造には多くの問題点が指摘されていました。そこで、フリーストール・ミルキングパーラ搾乳方式導入時の参考とするために、最近建設されたフリーストールの構造、管理作業、乳牛行動、搾乳作業などの実態と作業性の調査、分析を行って問題点を検討しました。
1. フリーストール農家事例調査
22戸のフリーストール牛舎の調査を行いました。屋根形状は切妻型が14棟ともっとも多く見られました。換気方式は自然換気方式が多く採用され、切妻型ではオ一プンリッジとカーテンを用いた壁面開口方式が多く、片流れでは北側壁面はカーテン開閉式の開口部で南面は全面開放したもの、セミモニタでは全ての開口部にカーテンを用いたものなどが見られました。 牛舎レイアウトはパーラに対して片側に牛床を配置したL型が13棟となっていました。ストールの配列数は2ロー、3ローともほぼ同数でした。
パーラ形式はサイド・バイ・サイドが10戸、ヘリンボーンが8戸でした。牛舎を改造したフラットバーンと、既存牛舎での入れ換え搾乳も見られました。
飼槽形状は通風が良好で掃除のしやすいフラット型が多く、フィードバリヤ形状はパイプ式が12戸、セルフロック6戸となっていました。この他、パドックを設置していない農家が多く、敷料はオガクズ、麦わら、細断麦わらがほぼ同数で用いられていました。また、糞尿処理では堆肥処理が10戸で他はスラリ処理となっていました。
2. フリーストールにおける乳牛行動
根釧農試フリーストール牛舎において、敷料の有無および素材を変えて牛舎内の乳牛行動をビデオ撮影して解析しました。その結果、濃厚飼料自動給餌機、飲水器などの付帯施設の周囲に乳牛が一時的に集中し、ほかの牛の動きを疎外するので設置場所の選定が重要です。また、牛床利用時間はオガクズ、乾牧草の敷料を投入した場合には、ゴムマットのみの利用時間の約3倍となりました(表1)。ストールの利用率を高め牛体の汚れを防ぐためには、適量の敷料を投入することが重要であることが確認されました。
さらに、飼料給与と採食行動の調査では、飼料給与後約l.5時間~2時間経過すると、採食可能範囲が食べつくされてしまいます。3ローのように全牛が同時に飼槽に並べない牛舎では、どの牛にも十分な採食時間と量を確保するためにも、飼料給与回数と掃き寄せの間隔・回数を考慮した管理が必要となります。
3. 牛舎レイアウトと管理作業調査
牛舎レイアウトがT型の場合は、群分けが単純で搾乳時の牛群入れ換えが容易でゲート開閉時間も短時間でした(表2)。L型ではl群管理であったため群の入れ換えはありませんでしたが、2群以上では入れ換え作業に工夫が必要と思われました。I型では搾乳牛2群と乾乳牛を収容していたので、中央通路のゲート開閉並びに牛群移動に時間を要していました。
4. パーラ形式と搾乳能率
サイド・バイ・サイド(8,10,12頭複列、15頭単列)と自動開閉装置付きの3頭複列タンデムパーラについて作業能率、作業性の調査を行いました(表3)。1時間あたりの搾乳頭数は、サイド・バイ・サイドの8D(複列)では62.4頭(2名作業)、10Dで89.0頭(3名)、12Dで96.6頭(3名)、15頭単列では44.4頭(2名)でした。タンデムでは37.0頭(2名)でした。作業動線は15頭単列がもっとも単純ですが、乳牛および作業者とも待機時間が長くなりました。タンデムでは他の乳牛の影響を受けずに搾乳が可能ですが頭数の割に移動距離が長く作業動線も複雑でした。
5.敷料資材の違いによる牛床汚染状況
ゴムマット、オガクズ、乾草、火山灰の牛床について汚染状況、細菌数の調査を行いました。牛床の汚れは足に付いた糞を持ち込むために通路側から90cmの所までおよびました。また、どのような敷料資材であっても利用開始と共に細菌数は増加し汚染されるので、牛床・敷料表面を乾燥状態にすることが大切です。
表1 敷料別ストールの積算利用時間
|  
 ストールの位置  | 
 
 ゴムマット  | 
 
 オガクズ  | 
 
 牧草  | 
|  
 窓側(h/週)  | 
 
 6.8  | 
 
 13.2  | 
 
 16.8  | 
|  
 中央(h/週)  | 
 
 8.0  | 
 
 32.6  | 
 
 21.4  | 
|  
 平均(比)(h/週)  | 
 
 7.4(1.0)  | 
 
 22.9(3.1)  | 
 
 19.1(2.6)  | 
注)調査時間:16時間×7日、平均値の比は対ゴムマットである。
表2 乳牛管理作業時間
|  
 作業内容/農家区分(レイアウト/群分け)  | 
 
 A(T/3)  | 
 
 X(T/2)  | 
 
 N(I/2)  | 
 
 H(L/1)  | 
|  
 牛群移動(分/1搾乳)  | 
 
 16(2)  | 
 
 7(2)  | 
 
 32.7(1)  | 
 
 14.1(2)  | 
|  
 ゲート開閉(分/1搾乳)  | 
 
 6(1)  | 
 
 11.2(1)  | 
||
|  
 除糞作業(分/1回)  | 
 
 28.5(1)  | 
 
 25(l)  | 
 
 18.6(1)  | 
 
 23.0(1)  | 
|  
 ストール清掃(分/1回)  | 
 
 66(3)  | 
 
 30.8(1)  | 
 
 8.9(2)  | 
注:カッコ内は作業者数
表3パーラ形式別の搾乳能率
|  
 パーラ形式  | 
 
 作業者数(人)  | 
 
 搾乳頭数(頭)  | 
 
 搾乳時間(時間)  | 
 
 搾乳能率(頭/時間)  | 
 
 移動距離  | 
 
 待機時間  | 
 
 ミルカ利用効率  | 
|  
 12Dサイド・バイ・サイド  | 
 
 3  | 
 
 132  | 
 
 1.37  | 
 
 96.6  | 
 
 △  | 
 
 ○  | 
 
 ○  | 
|  
 10Dサイド・バイ・サイド  | 
 
 3  | 
 
 170  | 
 
 1.91  | 
 
 89.0  | 
 
 ○  | 
 
 ○  | 
 
 ○  | 
|  
 8Dサイド・バイ・サイド  | 
 
 2  | 
 
 75  | 
 
 1.17  | 
 
 62.4  | 
 
 ◎  | 
 
 ◎  | 
 
 ○  | 
|  
 15Sサイド・バイ・サイド  | 
 
 2  | 
 
 83  | 
 
 1.87  | 
 
 44.4  | 
 
 △  | 
 
 △  | 
 
 ○  | 
|  
 3Dタンデム  | 
 
 2  | 
 
 42  | 
 
 1.14  | 
 
 37.0  | 
 
 △  | 
 
 ◎  | 
 
 ◎  | 
注)移動距離及び待機時間は、短い:◎、長い:△、中間:○で表示。移動距離は1人作業の場合。ミルカ利用効率(1搾乳中のミルカ作動時間割合)は、 約50%:○、約70%:◎。
