研究成果:8号の1
根釧農試 研究通信 第8号
(1998年3月発行)研究成果
1.スラリー施用によるとうもろこしマルチ栽培
作物科
1 試験のねらい
根釧農試では平成6年にとうもろこしマルチ栽培の施肥は堆厩肥を10aあたり4t程度施用した上で、基肥として現行の施肥基準量を全層施用すれば十分であることを明らかにしました。この試験ではマルチ栽培においてスラリーを有効に活用するために、化学肥料をスラリーで代替した場合の効果と問題点を明らかにしました。
2 試験の方法
とうもろこしの窒素施肥標準量は10a当たり基肥8kg+追肥4kgです。基肥窒素量(N8kg/10a)をスラリーで代替した区(スラリー4t区)、年間施用量の全量をスラリーで代替した区(スラリー6t区)および、化学肥料区(化学肥料N8kg区、12kg区)を比較しました。燐酸は不足するので化学肥料で調整した。また、スラリー多用による生育障害の有無を確認するために、スラリー多用区(スラリー8t区、12t区、農家スラリー6t区、8t区)を設けました。
作業は大型の作業機械とマルチ播種機を用いて行ない、供試品種は「エマ」で、栽植密度は8,000本/10aとしました。
3 試験の結果
3か年間とうもろこし施肥標準量の年間窒素施用量をスラリーで代替しましたが、全量をスラリーで代替しても化学肥料と同等の生育、収量が得られました。また当初、懸念されたスラリー施用によるとうもろこしの生育障害は一切認められませんでした。マルチ栽培ではマルチ播種機の作業工程上、スラリーは土壌全層に混和されるため、とうもろこしに対する生育障害の危険性は少ないものと推測されます。
とうもろこしの硝酸態窒素含有率は抽糸期前では0.2%を越えましたが、収穫時にはスラリー施用量にかかわらず茎葉で0.1%以下、雌穂は痕跡で、実用上、問題はないものと考えられました。
表1 作物体成分(平成9年 DM%)
|  
 処理区  | 
 
 N03-N  | 
 
 K  | 
||||
|  
 8月7日  | 
 
 10月3日  | 
 
 10月3日  | 
 
 8月7日  | 
 
 10月3日  | 
 
 10月3日  | 
|
|  
 茎葉  | 
 
 茎葉  | 
 
 雌穂  | 
 
 茎葉  | 
 
 茎葉  | 
 
 雌穂  | 
|
|  
 スラリー 4t  | 
 
 0.17  | 
 
 0.00  | 
 
 0.00  | 
 
 3.63  | 
 
 1.70  | 
 
 0.37  | 
|  
 スラリー 6t  | 
 
 0.21  | 
 
 0.01  | 
 
 0.00  | 
 
 4.20  | 
 
 1.62  | 
 
 0.39  | 
|  
 スラリー 8t  | 
 
 0.24  | 
 
 0.04  | 
 
 0.00  | 
 
 3.95  | 
 
 1.68  | 
 
 0.36  | 
|  
 スラリー12t  | 
 
 0.24  | 
 
 0.06  | 
 
 0.00  | 
 
 4.04  | 
 
 1.78  | 
 
 0.34  | 
|  
 化学N 8kg  | 
 
 0.25  | 
 
 0.05  | 
 
 0.00  | 
 
 3.85  | 
 
 1.48  | 
 
 0.37  | 
|  
 化学N12kg  | 
 
 0.28  | 
 
 0.06  | 
 
 0.00  | 
 
 3.78  | 
 
 1.52  | 
 
 0.43  | 
|  
 農スラリー6t  | 
 
 0.19  | 
 
 0.04  | 
 
 0.00  | 
 
 3.92  | 
 
 1.69  | 
 
 0.31  | 
|  
 農スラリー8t  | 
 
 0.21  | 
 
 0.03  | 
 
 0.00  | 
 
 4.08  | 
 
 1.66  | 
 
 0.35  | 
スラリー区は根釧農試スラリーを施用(t/10a)、化学N区は化学肥料施用区(kg/10a)、
農スラリー区は農家スラリーを施用。燐酸は化学肥料で施肥標準量に補正。
とうもろこしの乾物収量は窒素投入量10~15kg/10aで化学肥料区と同程度の生産をあげました。
図1(省略)は窒素投入量と乾物収量との関係ですが、投入窒素量32kg/10aでは収量が減少しましたが30kg/10aまでは窒素施用によって直線的に収量が増加しました。
一方、図2(省略)は窒素投入量からとうもろこしによる吸収量を差し引いた窒素収支との関係ですが、窒素投入量が25kg/10aを越えるとプラスに転じ、この領域においては過剰な窒素施用によって作物生産効率が低下していることが示されました。
以上のことから、とうもろこしのマルチ栽培において、スラリー施用で化学肥料と同等かそれ以上の収量を得るためには、窒素成分量として15~25kg/10aのスラリーを施用すればよいことになります。この場合、施用量は窒素を主体に考えても、窒素やカリの過剰の問題は実用上ありません。
この成果は、根釧地域のマルチ栽培に適用し、肥料およびスラリーは播種前に全層施用した場合のデータです。スラリーの窒素成分は農家によって大きく異なるので、施用前に分析を行い投入量を決定することが望ましく、また、不足する燐酸は化学肥料を施用して下さい。
表2 収量成績(平成9年)
|  
 処理区  | 
 
 投入窒素量 Kg/10a  | 
 
 乾物率%  | 
 
 乾物収量kg/10a  | 
 
 収量指数  | 
 
 乾雌穂率 %  | 
|||||
|  
 茎葉  | 
 
 茎葉  | 
 
 茎葉  | 
 
 雌穂  | 
 
 総重  | 
 
 茎葉  | 
 
 茎葉  | 
 
 雌穂  | 
|||
|  
 スラリー 4t  | 
 
 10.3  | 
 
 19.4  | 
 
 39.2  | 
 
 1043  | 
 
 575  | 
 
 1619  | 
 
 98  | 
 
 104  | 
 
 100  | 
 
 35.5  | 
|  
 スラリー 6t  | 
 
 15.4  | 
 
 18.5  | 
 
 38.9  | 
 
 1119  | 
 
 633  | 
 
 1753  | 
 
 105  | 
 
 114  | 
 
 108  | 
 
 36.2  | 
|  
 スラリー 8t  | 
 
 20.5  | 
 
 17.9  | 
 
 41.5  | 
 
 1123  | 
 
 728  | 
 
 1851  | 
 
 105  | 
 
 132  | 
 
 114  | 
 
 39.4  | 
|  
 スラリー12t  | 
 
 30.8  | 
 
 19.1  | 
 
 41.1  | 
 
 1287  | 
 
 757  | 
 
 2044  | 
 
 121  | 
 
 137  | 
 
 126  | 
 
 36.9  | 
|  
 化学N 8kg  | 
 
 8.0  | 
 
 19.4  | 
 
 38.8  | 
 
 1061  | 
 
 545  | 
 
 1607  | 
 
 100  | 
 
 99  | 
 
 99  | 
 
 33.9  | 
|  
 化学N12kg  | 
 
 12.0  | 
 
 20.0  | 
 
 37.6  | 
 
 1066  | 
 
 553  | 
 
 1619  | 
 
 100  | 
 
 100  | 
 
 100  | 
 
 34.2  | 
|  
 農スラリー6t  | 
 
 24.4  | 
 
 18.7  | 
 
 41.1  | 
 
 1176  | 
 
 726  | 
 
 1903  | 
 
 110  | 
 
 131  | 
 
 118  | 
 
 38.2  | 
|  
 農スラリー8t  | 
 
 32.5  | 
 
 18.4  | 
 
 39.6  | 
 
 1098  | 
 
 652  | 
 
 1750  | 
 
 103  | 
 
 118  | 
 
 108  | 
 
 37.1  | 
