北海道林業試験場研究報告-第62号-
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第62号(2)(令和7年9月発行)
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後志地方におけるクマイザサの一斉開花と幼齢カラマツ類造林地における野ネズミ被害(PDF:1.3MB)
明石信廣・南野一博・舟生憲幸
P39~47
後志地方では2023年に広い範囲でクマイザサが一斉開花し,2024年春にはこの地域のカラマツ類(カラマツ,グイマツ,グイマツ雑種F1)造林地において多くの野ネズミ被害が報告された。そこで,11年生以下のカラマツ類造林地39林分において被害調査を行うとともに,この地域において実施された野ネズミ発生予察調査のデータと合わせて,クマイザサの開花結実がエゾヤチネズミの増加,カラマツ類の被害に繋がったのかどうかを検証した。野ネズミ発生予察調査では2023年にエゾヤチネズミの顕著な増加は見られなかったが,調査を行ったすべてのカラマツ類造林地において野ネズミ被害が発生していた。主軸の頂端にまで及ぶ剥皮被害が発生していた造林地も多く,被害は積雪の多い時期に発生したと考えられた。ササの結実後にエゾヤチネズミが繁殖を繰り返して大発生に至るには時間を要すると考えられ,予察調査が行われた10月よりも後にエゾヤチネズミが急増した可能性が考えられた。また,周辺でササの一斉開花が見られなかった林分でも大きな被害が発生しており,ササの開花結実後に高密度になったエゾヤチネズミが周辺林分に移動した可能性が考えられた。
さし木苗と実生苗を用いたグイマツ雑種F₁低密度植栽実証林の20年生までの成長と生残(PDF:893KB)
中川昌彦・宮田理恵・石塚 航・来田和人・今 博計
P49~64
さし木苗と実生苗を用いたグイマツ雑種F1低密度植栽実証林(道有林内5箇所6つ,植栽密度:625本/ha,1,000本/ha,1,333本/ha,苗木の種類:さし木苗,実生苗)の20年生までの成長と生残にかかる諸形質を報告する。20年生時の諸形質について全実証林の平均値を,さし木苗625本/ha区,実生苗625本/ha区,さし木苗1,000本/ha区,実生苗1,000本/ha区,さし木苗1,333本/ha区,実生苗1,333本/ha区の順に述べる。樹高については,15.1 m,15.0 m,15.9 m,14.7 m,15.9 m,14.6 mであった。植栽密度の影響はなかったが,さし木のほうが実生よりも大きかった。胸高直径については,20.2 cm,20.1 cm,19.4 cm,18.0 cm,18.4 cm,17.3 cmであった。植栽密度が小さい区画で大きく,さし木のほうが実生よりも大きかった。生存率については,40%,44%,50%,55%,46%,48%であり,さし木のほうが実生よりも低かった。収量比数については,0.27,0.31,0.47,0.51,0.57,0.54であった。625本/ha区より,1,000本/ha区と1,333本/ha区で大きかったが,苗木の種類による違いは認められなかった。実証林全体での生存率と収量比数の値は,グイマツ雑種F1の低密度植栽が提唱された先行研究における中庸仕立て1,000本/ha植栽区の24年生までの生存率90%や,20年生時の収量比数0.7よりも大幅に低かったが,その理由について,本研究では明らかにできなかった。本研究によりクリーンラーチやグイマツ雑種F1の植栽において生存率の低さが問題になる事例の方が多いことが明らかになったことから,現時点ではグイマツ雑種F1の低密度植栽の実現可能性は低いと考えられる。グイマツ雑種F1の低密度植栽を道内各地で実現するためには,枯死原因の解明と,中庸仕立て1,000本/ha植栽であれば生存率が先行研究と同等の24年生時90%程度を平均的に実現できる技術開発の成功が不可欠である。
第62号(1)(令和7年3月発行)
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カラマツ類次代検定林における初期成績とその安定性について(PDF:1.0MB)
石塚 航・成田あゆ・今 博計
P1~12
優良種苗の拡充や改良に有効な早期選抜を推進するには,若齢時でも精度良く遺伝的特性を評価できる技術が求められる。複数環境下で遺伝的特性がどれだけ安定して発揮できるかを示す「変動性指標」が提唱されたことから,本研究において初期成績評価時に変動性指標を適用させて,優れた成績かつ高い安定性を示す系統・個体の選抜ができるか検討した。対象としたのは,2018年に北海道内3ヶ所に新規造成したカラマツ類次代検定林で,植栽後5年時の成長(樹高,胸高直径)を対象形質として,グイマツ雑種F1家系(のべ16家系)とカラマツ家系(のべ12家系)の遺伝的特性を評価した。3ヶ所における初期成績に基づいて遺伝的に成長に秀でたグイマツ親1系統とカラマツ4系統を見出すことができたが,算出された変動性指標を同時に考慮すると,そのうち両種それぞれ1系統が,発揮される遺伝的特性の安定性の観点から選抜しないほうが良いようだった。変動性指標の適用は,着実な選抜を進める一つの有効なアプローチとなりうると考えられた。
44年生トドマツ林分における水食い程度と心材含水率の実態解明および心材含水率に対する遺伝・立地・外傷要因の影響(PDF:2.4MB)
米澤美咲・大野泰之・滝谷美香・渡辺一郎・内山和子・津田高明・角田悠生・蝦名益仁・松本和茂・石塚 航
P13~28
トドマツの心材含水率が高くなる“水食い”は,建築材利用を推進する上でしばしば問題となるが,発生状況の把握や評価方法の確立は十分とは言えず,水食い形成に関わる要因についてもいまだ定説がない。そこで,豊頃町にある火山灰土壌に成林する44年生のトドマツ次代検定林において,水食い程度あるいは心材含水率の実態を調査し,その発生に関わる要因を,遺伝・立地環境・個体の外傷に着目し検討した。間伐木52個体について心材含水率と水食い材割合を測定したところ,それぞれ平均89.36%(39.51-193.43%),12.42%(0.00-64.35%)であった。心材含水率の値をもって一律に水食い材と正常心材を区別することはできなかったが,心材含水率と水食い材割合は有意な正の相関を示し,特に心材含水率が124%を超えると,水食い材割合の増加が急激となった。間伐個体52本の胸高直径(d)とFFTアナライザー測定による横打撃共振周波数(f)から心材含水率を推定するための換算式(推定精度r2 = 0.58)および適用可能なdの範囲を決定した(22.5 cm ≤ d ≤ 39.2 cm)。調査プロット内全立木(N = 229)のうち,この範囲に含まれた147個体について心材含水率を推定した。この推定心材含水率にみられる遺伝的影響の大きさを知るため,空間的な偏りも加味した育種価を推定したところ,明瞭な空間構造は検出されず,一定程度遺伝の影響が存在していることが明らかとなった。次に,推定心材含水率を応答変数,立地要因として立木周囲の土壌条件(含水率・硬度・カリウム含有量)と地形条件(斜面相対位置・曲率・地形湿潤指数(TWI;Topographic Wetness Index)),外傷要因として落枝痕数・傷面積を説明変数とした一般化線形モデルによりモデル選択を行った。その結果,ベストモデルは候補要因のうち全カテゴリー(土壌・地形・外傷要因)より構成され,選択された変数は土壌含水率・TWI・傷面積だった。ベストモデルにおいて推定された係数から,土壌含水率の高い地点や湿潤度の高い地形では水食いリスクが高い傾向にあり,大きな外傷は水食いリスクを高めることがわかった。以上より,水食いには遺伝的影響とともに複合的な因子が関わっていることが示唆された。
北海道における積雪を考慮したカシノナガキクイムシ越冬可能性の推定(PDF:1.4MB)
和田尚之・内田葉子・雲野 明・大井和佐・德田佐和子
P29~38
ブナ科樹木萎凋病(以下,ナラ枯れ)はカシノナガキクイムシ(以下,カシナガ)の媒介する病原菌によって引き起こされるミズナラなどの枯損被害である。北海道でも2023年に初めてナラ枯れが確認され,蔓延防止のために早急にナラ枯れ発生の危険性を評価する必要がある。寒冷地では,冬期の低温が樹幹内部で越冬するカシナガの生存率に大きく影響するため,本報では渡島半島を対象に樹幹内部の氷点下日数を気象データ(外気温及び積雪)から予測し,カシナガが越冬可能な地域を推定した。冬期の樹幹内部温度を計測した結果,地上高0 cmでは地上高40 cmよりも氷点下日数が有意に少なく地際付近が最も越冬に適していた。また,地上高0 cmの氷点下日数を外気温と積雪データからモデル化したところ,外気温氷点下日数と最大積雪深により0.21±5.06日(平均±標準誤差)の精度で予測できた。このモデルからカシナガの越冬生存率を推定すると,江差町北部~知内町北部の沿岸部などで10%を超えていた。また,暖冬であった2023年度は,せたな町の沿岸部や亀田半島東部でも越冬可能性が高かったほか,2023年の被害地は越冬生存率が50%を超えており,実際に半数以上のカシナガが生存していた。このハザードマップを活用し,被害の早期予測と防除体制の整備を進め,被害の蔓延防止に向けて尽力する必要がある。
