法人本部

データで見る北海道の今と未来

食6 ホタテガイの内臓から作ったエキスで魚の食欲を増進! 

はじめに

みなさんもホタテ貝柱がお好きですよね。ホタテ貝柱は、ふるさと納税返礼品の人気ランキングで全国上位に毎年ランクしており、ベスト5に道内自治体が2つも入っている年もあるほどです。

データを見ると、貝柱を含むホタテガイの令和5年道内生産量は約42 万tで、ここ20年間でも平均40万t、全国生産量の69 ~ 92 % を占める主要な産地となっています(図1)。また、本道水産業においても、ホタテガイの令和5年道内生産額は約1,046 億円で、さけますを含む全魚類の生産額(約1,075億円)に匹敵し、重要な地位を占めています(図2)。

図1 ホタテガイの道内生産量(2004-2023年)海面漁業生産統計調査(農林水産省)より作成
図1 ホタテガイの道内生産量(2004-2023年)
海面漁業生産統計調査(農林水産省)より作成
図2 北海道の魚種別生産額(令和5年)令和5年度(2023年度) 北海道水産現勢(北海道水産林務部)より作成
図2 北海道の魚種別生産額(令和5年)
令和5年度(2023年度) 北海道水産現勢(北海道水産林務部)より作成

ホタテガイのどこを食べている?

そのホタテガイですが、左右一対の貝殻で体が覆われている二枚貝であり、一枚の貝殻を外すと貝柱の周りに鰓、生殖腺、外套膜(ヒモ)、中腸腺(ウロ)などの内臓があります(図3)。バーベキューであればこの状態でバターや醤油、みりんなど好みの調味料を付けて焼き、ウロを取り除いておいしく食すのですが、多くは加工場で貝柱のみを取り出して出荷します。その際、残りの貝殻と内臓は、一部のヒモが珍味等で食利用される以外、加工残さとして廃棄物になります。その量は令和5年でホタテ貝殻が135千t、ウロを含む内臓が22千tであり、道内水産系廃棄物の半分以上を占めています(図4)。

このような加工残さですが、有効利用が進められています。ホタテ貝殻は土壌改良材や土木資材、カキの養殖、カルシウム肥料のほかチョークの原料として利用されています。

ウロを含む内臓はというと、カドミウム(Cd)が湿重量1kgあたり数十mg程度含まれており、これが有害物質であるため、ほとんどの地域では輸出用の飼料原料や希釈して堆肥にするなどの再利用にとどまっています。

図3 ホタテガイ解剖図
図3 ホタテガイ解剖図
図4 北海道の水産系廃棄物発生量(令和5年) 令和6年度(2024年度) 水産系廃棄物発生量等調査(令和5年度発生分)(北海道水産林務部)より作成
図4 北海道の水産系廃棄物発生量(令和5年)
令和6年度(2024年度) 水産系廃棄物発生量等調査(令和5年度発生分)(北海道水産林務部)より作成

ウロから有用成分を取り出す

しかし、ウロにはタンパク質が多く含まれており、その有効利用が期待されるところです。ご存知のとおりタンパク質はアミノ酸が結合して構成されています。タンパク質が分解してできた遊離アミノ酸は旨み成分となるグルタミン酸など機能性成分として働くことが知られています。

道総研では、魚の摂餌(せつじ)を促進する物質の一つに遊離アミノ酸が挙げられていることから、ホタテのウロを含む内臓を原料とし、ウロに多く含まれるタンパク質を分解して遊離アミノ酸を含む(図5)エキスをつくりました。具体的には、ウロが本来持っている酵素を活用することで、高価な市販酵素を使用せずにタンパク質の6割を遊離アミノ酸に分解し、魚類摂餌促進物質を作る効率的な方法を開発しました。魚類摂餌促進物質とは、エサに配合することで魚がよくエサを食べるようにする、いわばご飯のふりかけのようなものです。さらにウロに含まれるカドミウムを電解法で除去し(図6)、安全な魚類摂餌促進物質(ウロエキス)を製造する技術を確立しました(図7)。

図5 ウロ中の全アミノ酸とエキス化により得られた遊離アミノ酸
図5 ウロ中の全アミノ酸とエキス化により得られた遊離アミノ酸
図6 電解法によるカドミウム(Cd)の除去
図6 電解法によるカドミウム(Cd)の除去
図7 ホタテウロエキスの製造フロー試作したウロエキスで飼育試験を行ったところ、ハマチ、マダイ、クロソイ、マツカワなどの魚種では、エサに1~2%添加するだけで、食べ具合だけでなく、魚の成長も良くなり、魚を早く育てることができました。
図7 ホタテウロエキスの製造フロー
 
試作したウロエキスで飼育試験を行ったところ、ハマチ、マダイ、クロソイ、マツカワなどの魚種では、エサに1~2%添加するだけで、食べ具合だけでなく、魚の成長も良くなり、魚を早く育てることができました。

 

これから

わが国の漁業・養殖業生産量は徐々に減少しており、2023年には383tとなっています。特に漁業生産量が減少しており、養殖業生産量も減少しているものの生産量全体に占める割合は2割以上で推移しています(図8)。このため将来にわたり国民に対して水産物を安定供給していくために、養殖業に対する期待が高まっています。

その養殖業では、主に魚の乾燥粉末(魚粉)を原料とした配合餌料が使われています。2005 年までは魚粉の値段は1tあたり7万円程度でしたが、現在は20万円以上と値上がりしたため(図9)、魚粉に代わる安価な餌の開発が期待されています。

道総研では、ホタテウロエキスを農業系副産物に混ぜるなどによる魚粉代替飼料の開発を進めており、実用化が進めば新たなウロ利用方法として北海道のホタテ産業への支援となるほか、さらに重要性を増す養殖業への普及も期待できます。今後も製品化を目指して、研究を進める予定です。

図8 わが国の漁業・養殖業生産量の推移(2004-2023年)・海面漁業生産統計調査および内水面漁業生産統計調査(農林水産省)より作成
図8 わが国の漁業・養殖業生産量の推移(2004-2023年)
海面漁業生産統計調査および内水面漁業生産統計調査(農林水産省)より作成
図9 魚粉輸入価格の推移(1990-2024年)・財務省貿易統計より作成
図9 魚粉輸入価格の推移(1990-2024年)
財務省貿易統計より作成

 

若杉郷臣・三津橋浩行 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所 循環資源部)