災害6 気候変動に備えた土石流の危険流域の把握
はじめに
土石流が発生すると、沢の出口付近にある家屋を破壊するなど、多大な物的、人的被害を引き起こします。土石流が繰り返し発生した場所では、沢の出口付近に沖積錐(ちゅうせきすい)とよばれる扇状地状の地形が形成されます(図1)。つまり、沖積錐がある地域は土石流の危険性が高い地域となります。
沖積錐を生じている沢(以下、小流域とよぶ)に共通する地形条件を明らかにできれば、その条件に基づいて、小流域の土石流の危険性を評価することが可能となります。このことは、仮に河川の浸食や人工改変によって沖積錐が失われている小流域についても、土石流の危険性を評価できる可能性を示しています。北海道でも近年豪雨の頻度が増加しており(図2)、予め土石流の危険性の高い流域を漏れなく把握することが、防災上きわめて重要です。


解析手法
2003年豪雨の被災地域である日高地方で、沖積錐の有無と地形条件との関係を機械学習させて、土石流の発生に影響していると考えられる小流域の地形的条件を解析しました。小流域の地形条件は、図3に示す集水面積、流域長、流域内の起伏、流域の傾斜最頻値、起伏比(流域の河床勾配)、出口付近の河床勾配の6つの特性に着目しました。

結果
学習結果をもとに、土石流の危険性が高い小流域、危険性が低い小流域それぞれの抽出を試みた結果、対象とした全235流域のうち187流域(80%)で沖積錐の有無(土石流の危険性の高い地域かどうか)を正しく判別できました。また、土石流の危険性が高いと推定された小流域(66流域)のうち35(53%)流域では、2003年豪雨時に実際に土石流が発生していました。さらに、66流域のうち9流域では、地形図からは河川の浸食や人工改変により沖積錐が確認できませんでしたが(図4(a))、現地調査で土石流が発生していた痕跡を確認できたことから(図4(b))、土石流の危険性が高い小流域として正しく抽出できていることが確認できました。

今後の取組
現在の土石流危険流域の指定において、定量的な基準が十分に設けられていないため、今後指定を進める上で問題になると思われます。沖積錐を生じている小流域の地形条件をより具体的に明らかにできれば、その地形条件に基づいて土石流の危険流域を指定することが可能となります。今後はこの手法を全道に展開して、土石流の危険流域のマップを構築する予定です。
参考文献
Koshimizu et al. (2024) Morphological characteristics and conditions of drainage basins contributing to the formation of debris flow fans: an examination of regions with different rock strength using decision tree analysis. Natural Hazards and Earth System Sciences, 24(4), 1287-1301. https://doi.org/10.5194/nhess-24-1287-2024
(輿水健一 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所 地域地質部)
