
第36話 胞子が少なく抗酸化物質が多いタモギタケ
「えぞの霞晴れ63号」
タモギタケ(Pleurotus cornucopiae)は、日本、中国東北部、韓国およびロシア極東地方の北半球温帯以北に自生しています。日本では主に北海道および東北に天然分布しており、初夏から秋にかけてニレ類を主とする広葉樹の伐根(ばっこん)や倒木から発生する鮮やかな黄色いきのこです。昭和50年代以降、北海道において人工栽培が普及し、北海道は生産量全国1位となっています。
タモギタケは独特の香りとともによく出汁が出ることから、汁物、鍋物、天ぷら、スパゲティ、八宝菜、焼きそばなどの和風料理、洋風料理、中華料理と幅広く料理に使えます。また生のタモギタケはあまり日持ちがしないため、収穫後直ちに水煮レトルト加工を行い、北海道のみならず国内の外食産業や小中学校給食の食材としても利用されています。
タモギタケはβ-グルカンによる免疫力を高める作用、セラミドによる皮膚の保湿作用、血糖値上昇抑制効果といった様々な健康機能性に加え、学習・記憶能力向上作用を有するとされるエルゴチオネイン(EGT)という成分が含まれており、健康食品としても販売されています。EGTは、イオウ原子を含むアミノ酸の一種で、100年以上前にライ麦の麦角(ばっかく)から発見され、カビ類やきのこを含む多くの菌類に含まれています。ビタミンEの数千倍の抗酸化力(酸化ストレスから細胞を保護する力)を持ち、老化抑制や抗炎症作用(体内の炎症を抑える効果)が確認されています。EGTは2000年代以降、タモギタケを含むヒラタケ属やヒトヨタケ属のきのこ類に多く含まれることが明らかとなりました。林産試験場における成分評価でもタモギタケにEGTが非常に多いことを確認しています(図1)。

図1 各種きのこEGT含量
一方、タモギタケは、成熟する時に大量の胞子を飛散させることから、栽培に携わる従業員のアレルギー様症状や換気扇・空調設備等の汚染が問題となっていました。そこで、林産試験場では胞子がほとんど飛散しない(胞子欠損性)新品種の開発に取り組みました。
胞子欠損性株の作出は紫外線処理による突然変異の誘発により行いました。紫外線照射により得られた胞子欠損性株を野生型株と交配することにより約300菌株を作出しました。これらの菌株について栽培試験を繰り返し、胞子欠損性に加え収量や形態の優れた6菌株を選抜しました。選抜した6菌株のEGT含量を分析した結果、1菌株は従来品種に比べ約1.5倍量のEGTを含有することが明らかになりました(図2)。
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図2 エルゴチオネイン(EGT)含量の比較 | 図3 胞子落下量の比較 |
この菌株は従来品種よりも胞子落下量が1/10,000以下であることも確認されました(図3)。同株は胞子飛散を低減することにちなみ、「えぞの霞晴れ63号」(写真)と命名し、2020年9月に品種登録(登録番号:28133)しました。
写真 品種登録した「えぞの霞晴れ63号」
「えぞの霞晴れ63号」は胞子が少ないため他のきのこへの影響が少なく、マイタケ、キクラゲ等他のきのこと一緒に栽培することができます。また掃除の手間が軽くなり労働力の軽減にもつながります。
超高齢社会を迎える中、学習・記憶能力の向上作用を有するEGTへの需要が高まっています。胞子飛散が少なくクリーンな環境で栽培できる「えぞの霞晴れ63号」は、優れた形質と高いEGT含量を併せ持ち、生産者と消費者の双方の健康に寄与することが期待されます。
[2026年6月23日 公開]
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