【普及奨励事項】
新品種候補                               (作成 平成9年 1月)
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            総合農業 作物生産 夏畑作物 ばれいしょ−Ⅰ-2-085-1 北海道農業 作物 畑作 ばれいしょ新品種候補系統 「根育29号」の概要 根釧農試 研究部 馬鈴しょ科  | 
1.特性一覧表
| 系統名 | ばれいしょ「根育29号」 | 組合せ | S.tubersum ssp.andigena(W553-4)× R392-50  | |
| 特性 | 長所 1)疫病圃場抵抗性がきわめて強く、疫病の無 防除栽培が可能である。 2)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性もある。  | 
短所 1)上いも平均一個重が小さく、中以上いも 重が熟期の割に少ない。 2)熟期が「農林1号」並に遅い。  | ||
| 採用県と普及見込み | 北海道 200Ha | |||
| 調査場所 | 根釧農試(育成地) | 十勝農試 | 北見農試 | |||||||
| 系統名または 品種名/形質  | 
根育 29号  | 
男爵薯 (標準)  | 
農林 1号 (比較)  | 
根育 29号  | 
男爵薯 (標準)  | 
農林 1号 (比較)  | 
根育 29号  | 
男爵薯 (標準)  | 
農林 1号 (比較)  | 
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| 早晩性 | 中晩 | 早 | 中晩 | 中晩 | 早 | 中晩 | 中晩 | 早 | 中晩 | |
| 開花期(月日) | 7.22 | 7.22 | 7.21 | 7.8 | (7.4) | 7.5 | 7.10 | 7.10 | 7.9 | |
| 枯凋期(月日) | 10.9* | 9.18 | 10.9* | 9.27 | 9.6 | 9.30 | 9.30 | 9.4 | 10.1 | |
| 茎長(㎝) | 73 | 45 | 68 | 91 | 48 | 81 | 89 | 57 | 82 | |
| 上いも数(個/株) | 13.4 | 9.9 | 8.9 | 14.2 | 9.6 | 9.3 | 15.6 | 8.8 | 8.8 | |
| 一個重(g) | 80 | 86 | 118 | 72 | 84 | 104 | 78 | 105 | 119 | |
| 上いも重(kg/10a) | 4,021 | 3,341 | 4,019 | 4,454 | 3,578 | 4,312 | 5,583 | 4,156 | 4,790 | |
| 対標準比(%) | 120 | 100 | 120 | 124 | 100 | 121 | 134 | 100 | 115 | |
| 中以上いも重(kg/10a) | 3,146 | 2,770 | 3,765 | 3,065 | 2,954 | 3,933 | 4,289 | 3,741 | 4,498 | |
| 対標準比(%) | 114 | 100 | 136 | 104 | 100 | 133 | 115 | 100 | 120 | |
| でん粉価(%) | 15.7 | 14.8 | 17.7 | 14.3 | 14.8 | 16.0 | 14.5 | 14.2 | 16.3 | |
| 塊 茎  | 形 皮色 肉色 休眠時間  | 偏球 淡赤 淡黄 やや淡  | 
球 白黄 白 やや長  | 偏球 白黄 白 やや短  | 
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| 耐 病 虫 性  | シストセンチュウ(中央) 疫病圃場(根釧) 塊茎腐敗(十勝) 葉巻病(中央) 粉状そうか病(長崎)  | 強(H1) ごく強 やや強 弱 弱  | 弱(h) 弱 弱 弱 弱  | 
弱(h) 中 中 弱 中  | 
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| 調 理 特 性  | 肉質 調理後黒変 煮くずれ 食味 用途  | 
中 やや小 少 中 調理  | やや粉 少 中 中上 調理  | 
中 中 少 中 兼用  | 
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| 調査年次 | 平成元、5〜8年 | 平成5〜8年 | 平成6〜8年 | |||||||
2.ばれいしょ「根育29号」の特記すべき特徴
 早晩性は「男爵薯」より遅く「農林1号」並の中晩に属する。
 上いも重は「男爵薯」より多く、「農林1号」並に多収である。
 疫病圃場抵抗性がきわめて強く、疫病無防除栽培においても茎葉の罹病はわずかであり、収量や品質の低下は少ない。
 またジャガイモシストセンチュウ抵抗性である。

図.疫病無防除区と慣行防除区における上いも重の比較(根釧農試)
3.北海道で奨励品種に採用しようとする理由
 ばれいしょ栽培には、病害虫防除、除草などに多くの薬剤が用いられており、減農薬や無農薬栽培を行うには、収量の低下や塊茎の腐敗をもたらす疫病を回避することが最も重要である。その手段として、早生品種を前進栽培によって疫病の蔓延前に収穫したり、あるいは疫病圃場抵抗性品種を栽培することが考えられる。しかし、「男爵薯」などの早生品種は圃場抵抗性が弱いので、減農薬・無農薬では安定した生産が難しいばかりでなく、でん粉価やビタミンCなど品質も低下しやすい。また、北海道の奨励品種で実用レベルの疫病圃場抵抗性を有する品種は、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持たない「マチルダ」しかなく、線虫発生地域での栽培はすすめることができない。
 「根育29号」は、疫病圃場抵抗性がきわめて強く、疫病無防除栽培においても収量や品質の低下がきわめて少ない。さらに、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有することから、ジャガイモシストセンチュウ発生圃場での作付けも可能である。また、淡赤皮・淡黄肉であることから、北海道が目指しているクリーン農業の専用品種として差別化することも容易である。「根育29号」の大きな赤紫色の花は開花期間も長いので景観的な利用や、鑑賞と実益を兼ねた家庭菜園やベランダ栽培用としても期待される。
  「根育29号」は、道内に栽培される主要食用品種に比べ栽培特性は劣るが、減農薬・無農薬を志向する生産者および消費者の需要を開拓するための専用品種として普及をすすめる。
北海道一円

           注1)すべて疫病慣行防除における成績。
            2)精度に問題のある年次を含む場合や単年度の成績は( )で示す。
普及見込み地域における「根育29号」の「男爵薯」対比(%)
  上段:上いも重
  下段:中以上いも重(農試)、70g以上いも重(現地)
5.栽培上の注意
1)塊茎形成および肥大が遅いので、浴光催芽、早植えなど初期生育の確保につとめること。
2)疫病の無防除と組み合わせて他の薬剤の使用も控える場合には、土壌病害や軟腐病、菌核病の発生が多い圃場での栽培を避ける。
3)収穫後は、赤皮で緑化いもとの識別が難しいので、遮光シートで覆うなど曝光を避ける。
4)休眠が短いので、低温貯蔵につとめること。